財政学や地方自治を研究する上において、その基礎となるデータをどこから集めるかというのは、非常に難しい問題だと思います。
今回、研究に使えるデータと、それらを活用するとどのような分析ができるのかについて、ご紹介させていただきます。全国の研究者の皆様の参考になれば幸いです。
人口と言えばコレ!国勢調査
人口関係データを入手するなら、何はなくともまず国勢調査ですね。統計法に基づく、我が国のもっとも重要かつ基本的な統計として位置づけられる統計データです。データ分析はもちろんのこと、地方交付税の算定や選挙の区割りなど、さまざまな行政分野において、この国勢調査人口が基礎数値となって用いられています。
国勢調査で示される人口は、5年刻み・年齢階層別・地方公共団体別などの区分で内訳が示されており、地方公共団体ごとの人口の推移を、相当長期のスパンで分析ことができます。
ただし、原則として「5年刻み」でしかないので、より細かく人口分析を行おうとする場合、国勢調査人口に各年の住民基本台帳人口の増減を加味した推計人口などを用いる必要があります。
決算カードは分かりやすさに定評!
地方公共団体の財政状況を「簡単」かつ「わかりやすく」、そして「1枚」にまとめたものとして、昔から多くの人に愛用されてきた決算カード。
これは、後述する地方財政状況調査(決算統計)などから、決算規模や目的別・性質別の内訳、財政力指数や経常収支比率、健全化判断比率などといった主要な財政指標をピックアップして掲載し、1団体につきA41枚にまとめたものです。総務省のホームページに、すべての地方公共団体の決算カードが掲載されています。
この決算カード、非常にわかりやすいので、多くの方に愛用されていますが、それぞれの数値・指標について、本当にエッセンス部分しか掲載されていないので、踏み込んだ分析に用いるには少し物足りないです。
膨大な情報、ゲットだぜ!地方財政状況調査(決算統計)
前述の「決算カード」のもととなるデータはこれ、地方財政状況調査、いわゆる「決算統計」です。すべての地方公共団体の決算について、総務省が定めるルールに基づいて、統一的に整理された統計データです。
統計データは、約100もの表から構成されており、とりわけ第14表(性質別経費の状況)については、経常収支比率の積算根拠になることから、非常に有用な情報であると言えます。このほかにも、歳入歳出決算のみならず、地方債残高の状況や基金の状況など、細かな数値をたくさん入手できるのが、この決算統計の特徴です。
そして、特筆すべきは、この決算統計を総務省統計局のE-Statで入手できるようになっていること。一昔前は、総務省や各地方公共団体に情報開示請求をしないと入手できないようなデータだったのですが、昨今のオープンデータの流れの中で、情報が積極的にオープンになっている様子です。これは非常に望ましい話ですね。
ただし、決算統計で扱われるデータは非常に複雑で、財政の素人が読み解くことは困難…というより、ほぼ不可能と言って良いレベルです。
決算統計に手を出すのであれば、先に自治体財務の基礎知識を十分に予習するか、自治体財政課職員をブレーンとしてそばに置いておくなどの工夫が必要でしょう。
公営企業も忘れない!地方公営企業決算状況調査(公営企業決算統計)
前述の地方財政状況調査は、地方公共団体の普通会計をベースにしたものですが、上下水道事業や公立病院事業、公営交通事業などといった、地方公営企業に関する決算データをまとめたものが、地方公営企業決算状況調査。こちらは「公営企業決算統計」と呼ばれています。
こちらも、普通会計の決算統計と同様に、国の統一ルールに基づいて計数整理された、地方公営企業の決算データを見ることができます。地方公営企業は、民間企業と同様に「損益計算書」「貸借対照表」があるので、こちらの方がなじみやすいという方も多いのではないでしょうか。
なお、E-Statで統計データを参照できるのは、こちらも同様です。普通会計の決算統計とあわせて、強力なデータがWebで公開されるようになったのは大きいですね。時代は変わったもんです…。
最近の流行りは、健全化判断比率カード
地方公共団体の財政状況は、長らく決算統計を用いて行ってきましたが、これだと地方債残高以外の負債の状況が分からなかったり、特別会計や第三セクターの赤字状況が分からなかったりするなど、資産・負債の正確な状況が把握できないといった課題がありました。
そこで平成19年度決算から登場したのが、この「健全化判断比率」。実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率の4つの指標です。
これまで明示されてこなかった特別会計での赤字は連結実質赤字比率で、そして特別会計・第三セクター等も含めたストック面での財政評価は将来負担比率で、といったように、新しい財政分析のツールとして、実務的なアプローチを行う研究者を中心に評価されています。
その健全化判断比率の積算内訳などを、各団体が統一の基準でみられるように整理されたものが、この健全化判断比率カードというわけなのです。
入手は難しいけど…普通交付税算定台帳
普通交付税の算定は、冒頭で書いた「国勢調査の人口」に基づいて算定するのが基本ですが、詳細を紐解いていくと、各地方公共団体の実情を反映するために、さまざまな統計数値を用いて、「補正」をかけていくという作業を行います。
そのため、普通交付税の算定台帳を見ると、さまざまな行政分野にかかる統計数値が網羅的に示されており、実はこれが財政分析において非常に「使える」ものだったりするのです。
たとえば、普通交付税の生活保護費の算定においては自治体ごとの被扶助者数が、扶助メニューごとの内訳をもって示されていたり、また基準財政収入額の算定においては、自治体ごとの納税義務者の所得階層ごとの内訳が示されていたりするのです。
これらはもちろん、元となる統計(福祉行政報告例、市町村課税状況調査)があってのものなのですが、それらが網羅的に、かつ団体間の比較が容易な形でまとめられているという点において、この普通交付税算定台帳は非常に高い価値があるといえるでしょう。
ただ、この普通交付税算定台帳は、残念ながら本稿執筆時点においては、Webへの公開はなされていません。必要があれば、情報提供をいただけるようにお願いしていくしかないのが現状です…。
まとめ
このように、主に財政分析に使える、といった視点から、国で公開されているもの、あるいは公開されていないものの入手できれば有用なもの、といった統計データを、いくつかご紹介させていただきました。
これらの統計データに共通しているのは、2点あります。
まず1つは、「毎年(毎回)同一の手法でデータが捕捉されていること」。これにより、各データの年度間比較…すなわち「タテ」の比較が可能になります。
そしてもう1つは、「国が統一の基準をもっていること」。これにより、各自治体がそれぞれの地域の特性に応じてさまざまな施策を展開しているところ、これらに対して統計データを通じた「ヨコ」の比較ができるようになります。
財政分析、ネタとなるデータはかなり公表・公開されていますが、現時点でこれらを正しく用いた説得力のある分析は、ほとんど世の中に出てきていないように見受けられます。研究者の方はもちろん、多くの方に、ぜひこれらのデータを活用し、新たな発見に向けて、分析を進めていただければと思います。
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