わが国の福祉制度の中でも、とりわけ大きな財政負担を占めるものの1つが、生活保護費です。
生活保護制度は、憲法第25条に書かれた「健康で文化的な最低限度の生活」を具現化するために、生活保護法に基づいて実施される福祉制度です。生活保護の中には、生活扶助、医療扶助、住宅扶助などのさまざまなメニューがあり、市、町村にあっては福祉事務所を設置する町村または都道府県がこれらの事務を行います。
今回のブログ記事では、この生活保護制度における財源保障の状況について、考察してみようと思います。
生活保護制度の財源構成
生活保護にかかる扶助費は、その3/4を国庫負担し、残る1/4を地方が負担することになります。3/4部分は国家予算に計上され、残る1/4は各自治体がそれぞれ予算計上して、事務が執行されているという構図です。
とまあ、ここまではネットで検索すれば出てくるような、ある種誰でも知っているような情報です。
マクロにおける生活保護費の財源保障
ということで、ここから先、財政制度について深掘りしながら議論を進めていきましょう。
先ほど、1/4については自治体が予算計上…とありましたが、それと同時に抑えておかないと行けないのは、国が3/4部分を予算措置することとあわせて、国は残る1/4部分について、地方財政計画の歳出に計上しています。
地方財政計画…正式には「地方公共団体の歳入歳出総額の見込額」というものですが、国は地方負担を伴う事業を予算計上した際、セットで地方負担部分について、この地方財政計画に計上しなければなりません。
この地方財政計画の歳出には、生活保護費のような国庫負担金事業はもちろん、ハード事業の国庫補助金の裏にあたる地方負担のほか、地方単独事業、さらには公債費など、もろもろの項目が積み上げられていきます。
一方、その財源となる歳入について、地方税や地方交付税の法定率分、地方債やその他歳入などを積み上げていくわけですが、それでも不足する場合、総務省と財務省の折衝を通じて対応策が検討され、最終的に地方交付税の加算や臨時財政対策債の措置によって、地方財政計画の歳出に見合う財源が確保される形となります。
何が言いたいかというと、このように地方財政計画の歳出に所要額が計上されることを通じて、マクロでの地方交付税(+臨時財政対策債)で財源保障がなされている、ということですね。
ミクロでの財源保障は普通交付税の算定を通じて
さて、このようにしてマクロで確保された地方交付税は、その算定を通じて、各地方自治体へ交付されていきます。
具体的には、生活保護費の場合、普通交付税の基準財政需要額の算定項目となっており、この中で標準的な行政経費が計上され、もしその行政経費を他の行政経費分も含めて標準的な税収の一定割合でまかないきれない場合、その不足分が普通交付税として交付されます。
今、上記に書いたことを数式化すると、皆さんよくご存じの、
基準財政需要額-基準財政収入額=普通交付税
になるわけですね。
さて、その基準財政需要額における生活保護費ですが、通常の需要額というのは、各団体の実情にとらわれることなく、標準的な行政経費を機械的に算定するという考え方のもと、その算式は、
人口×補正係数×単価
という、きわめてシンプルなものとなります。
機械的な算定の考え方の中で、どれだけ算定をきめ細かくするかを決めるのが、「補正係数」です。
通常はこの補正係数、給与費の地域手当や寒冷地手当、スケールメリットを表す段階補正など、きわめて限定的になるところ、生活保護費については各団体の被扶助者数の規模感があまりに異なりすぎることから、例外的に実需の発生状況を一定精緻に捉えるべく、被扶助者数を補正係数化して算式に取り込んでいます。
つまり、「生活保護費については、例外的に」各団体の実情を算定に反映するしくみがあり、マクロで確保された地方交付税が、ミクロ…つまり個別団体にきちんと配分されるような工夫がなされている、ということが言えるかと思います。
ただし…精緻なのは「扶助費」と「人件費」の「一部」のみ
とはいえ、「財政需要のすべてを精緻に捕捉するわけではない」のが、この普通交付税の良いところでもあり、悪いところでもあります。
今回の生活保護費については、他の費目と比較すると明らかに各団体の実情を細かく加味しようとしてくれていますが、それでも捕捉しているのは「扶助メニューごとの人数」のみ。
つまり、扶助の単価は算定において実情が一切反映されず、国が定めた単価で機械的に算定されるのです。従って、たとえば都市部で医療費が高くなりがちな自治体は、交付税上の単価が実情にあわず、基準財政需要額の算定額が足りない…という事態に直面することもあります。
また、人件費についても、「生活扶助受給者が多
いところは、ケースワーカーの配置数が増えるため、財源も多く必要だろう」ということで、人件費を割り増しするような補正がかかっています。ただし、これもあくまで人数ベースで割り増ししているだけであって、1人当たり人件費は一切実情を考慮しません。
まあ、実人件費については、新人を配置するか定年退職間際の職員を配置するかで大きく数値が変わってくるところではあるので、あまりそこは神経質に分析すべきでないのかな、とは思いますが…。
まとめ
今回の記事では、財政負担が大きな生活保護費について、地方自治体の財政運営においてどのように財源保障が行われているのかを見ていきました。
マクロでは地方財政計画を通じて、地方交付税を含めた一般財源総額が確保されていること。そしてミクロでは、普通交付税の算定を通じて財源保障がなされていること。ただし交付税の算定は必ずしも精緻に実需を捕捉しているわけではないこと…こういったあたりを、確認していきました。
生活保護は自治体に任意性がほとんどない事業ですので、その財源保障のあり方については常に議論が渦巻いていますが、その中には必ずしも正確な財政制度の理解に基づかないものも散見されるところです。
ぜひ、今回の記事を通じて正しい理解をしていただき、正確な議論を展開していただければと思います。
なお、今回ご紹介した普通交付税の算定については、技術的な限界があり、詳しい算式をご紹介できていませんが、地方財務協会が発行している「地方交付税制度解説」などの書籍に具体的な算式が示されています。もし正確な議論に興味がおありの際には、これらの書物もぜひご参考になさってください。
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